――たった一度で人の価値観を変えてしまうような劇的なものではない。でも、諦めて終わらせてしまわなければ少しずつ変化は起こる。
安富さんは家事についてこう考えていたが、私には人生そのものに対する考えのように感じられた。
私は家事が苦手だ……と思っていた。でも、違うのかもしれない。完璧にできなくても、私と夫が生きやすい生活を営むことができれば、それが私の家事になるのではないだろうか。この小説は、人と比べてしまったり、まだ自分は足りない、できていないと思ったりしてしまう心を、丁寧にほどき、自分らしく生きることとは何なのかを、一緒に考えさせてくれる。温かいエールのような物語だ。読み終わったときには、とてもやさしく爽やかな気持ちになれる。多くの方に、ぜひ読んでいただきたい。
本作は、創作大賞2023(note主催)で朝日新聞出版賞を受賞した著者のデビュー作だ。私も同大賞で別冊文藝春秋賞を受賞して、もうすぐデビュー作が刊行となる予定なのだが、目が離せない作家が増えて、とても嬉しい。今後、津麦がほかの家庭で活躍する続編も読みたいし、別の作品で人の生きる姿を描き出してくれることも期待したい。