『クリームイエローの海と春キャベツのある家』     せやま南天 著
朝日新聞出版より4月5日発売予定

 私は、家事が苦手だ。子供の頃からおっとりしており、身の回りのことをするのが得意ではなかった。大人になっても変わらず、掃除も片付けも人並みにはできない。料理はするが、上手ではない。レトルト調味料や冷凍食品に助けられ、何を出しても「美味しい」と言ってくれる夫に救われているだけだ。洗濯は嫌いではないけれど、得意でもない。先日、仕事から帰ってきた夫が、部屋干ししてあるシャツの袖を黙って引っ張り出していた。片袖だけ裏返ったままで干していたことに、私は一日中気付いていなかったのだ。なんとも情けない。夫は、これも個性のうちと思って気にしていないらしい。でも、やっぱり申し訳ないと思うことがある。こんなポンコツでごめんなさい、と。

 本作は、家事代行サービスで働き始めた新米ヘルパーの永井津麦が、ある家族と出会い、葛藤しながら成長していくお仕事小説だ。

 津麦が派遣されたのは、妻を病気で亡くしたばかりのシングルファーザー織野朔也と、その五人の子供たちが住む家。事前の打ち合わせはろくにできず、感じの悪い朔也に不安を持ちながらの訪問初日、部屋に足を踏み入れた津麦は大きな衝撃を受ける。そこには、クリームイエローの海が広がっていた。片付けられていない洗濯物の海だ。おもちゃやオムツも散乱し、足の踏み場がない。朔也は、いつも目の下に濃いクマを作り、大工の仕事と子供の世話に追われている。生活は破綻しているように見えた。読みながらハラハラし、心配になる。もしかしたら、津麦の手には負えないのではないか。しかし、そんな家の冷蔵庫には意外にも、鮮やかな黄緑色の春キャベツが瑞々しく輝いていた……。

次のページ