日本小児科学会(※3) によると、麻しんに対する集団免疫を維持し、日本の「麻しん排除状態」を維持するためには、少なくとも第 1 期のワクチン接種率を全国的に 95%以上に保つ必要があるといいます。しかしながら、これまで 95%以上の高い接種率が得られていた第 1 期の接種率が、2021 年度は93.5%に低下、2022 年度には 95.4%と上昇したものの、95%に達しない地域を数多く認めています。このままでは、麻しんの免疫を持たない人が増え、麻疹や風疹が流行してしまう可能性が危惧されているのです。

 アメリカでも、1963 年に麻疹ワクチン接種プログラムが開始され、ワクチン接種の普及により、ワクチン接種プログラム開始前と比べて麻疹症例は 99% 以上減少、2000年には麻疹の撲滅が宣言されました。CDC の報告書によると、2022~2023 学年度の幼稚園児の 93%(※4) が、麻疹、おたふく風邪、風疹を予防するために 2 回の予防接種を受けたといいます。

 しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(※5)のせいで、2020年から2022年にかけて6,100万回以上の麻しん含有ワクチンの接種が延期され、未接種となってしまったことや、近年の誤った情報や偽情報の広まりによるワクチン接種忌避などにより、アメリカでは、麻しんのワクチン接種を受けていない、またはワクチン接種が不十分な地域で流行が発生する可能性が常に潜んでいる状態が続いているのです。

 実際に、アメリカでは、2024年3月14日(※6)の時点で、カリフォルニアやニューヨーク市など17の州や地域から、計58件の麻しん症例が報告され、すでに、昨年の報告数である58件に達してしまいました。

世界的大規模の流行の危惧

 パンデミックが終わり、人々の往来が再開された今、不運にも麻しんに感染している、入国や国際線乗り換えのために立ち寄る旅行客や、他国から帰国した旅行者を通じて、常に麻しんウイルスが世界中のあらゆるところから、どの国にも侵入する可能性があるというわけです。

 CDCは、このような状況を、「世界的麻しんのアウトブレイク(Global Measles Outbreaks)」であるとし、アメリカを含む世界中で、麻しんの大規模な流行が(※7)発生するリスクが高まっていることを警告しています。

 日本においても、麻しんの流行が懸念されている今だからこそ、ご自身の麻しんのワクチン接種歴を確認してみることをお勧めしたいと思います。

【参照URL】

(※1)https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031300547&g=pol

(※2)https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html

(※3)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20231211_MR.pdf

(※4)https://www.pbs.org/newshour/health/measles-cases-are-rising-in-the-u-s-heres-why-misinformation-about-the-vaccine-persists-today#:~:text=According%20to%20a%20report%20from,effective%20and%20available%20since%201971.

(※5)https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html

(※6)https://www.cdc.gov/measles/cases-outbreaks.html

(※7)https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html

著者プロフィールを見る
山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

山本佳奈の記事一覧はこちら