山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師
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日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「感染事例が相次いで報告されるはしか(麻しん)」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

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 日本で、はしか(麻しん)の感染事例が相次いで報告されています。林官房長官(※1) は3月13日の会見で、海外で流行している麻しんについて、「海外との往来の再活発化に伴って、国内での流行にも特に注意が必要な状況だ」と警戒感を示すととともに、2回の麻しんワクチンの接種を受けるなど、感染拡大防止のための予防策を呼び掛けたといいます。

 なぜこれほどまでに、麻しんの流行が警戒されているのでしょうか。1つ目の理由として、麻しんウイルスは、空気感染で広がり、感染力が極めて高いことが挙げられます。米国疾病予防管理センター (CDC:Center for Disease Control)によると、麻しんに対する予防策を講じていない人の約10人中9人(※2)が、麻疹ウイルスに暴露された後に感染するほどの感染力の高さがあるといいます。

重篤な合併症で死に至ることも

 2つ目の理由として、麻しんに感染すると重篤になる可能性があること、そして重篤な合併症を引き起こし、死にいたることさえあるという事実です。麻しんに対する免疫を持たないヒトが、麻しんにひとたび感染すると、10~12日間の潜伏期間を経て、高熱や発疹などの症状が出現します。ヒトの体内に入った麻疹ウイルスは、免疫を担っている全身のリンパ組織中心に増加し、一過性に強い免疫機能抑制状態を生じるのです。

 そのため、麻しんは、あらゆる年齢層で重症化する可能性があります。特に5歳未満の子どもや20歳以上の大人妊娠中の女性、免疫力が低下している人は、合併症を患う可能性が高くなることが知られています。

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