鈴木涼美さん

 作家・鈴木涼美さんの連載「涼美ネエサンの(特に役に立たない)オンナのお悩み道場」。本日お越しいただいた、悩めるオンナは……。

【写真】肩出しニットで前を見つめ…母を亡くした頃の鈴木さん

Q. 【vol.10】中絶経験に折り合いをつけられず、自己嫌悪を続けるワタシ(30代女性/ハンドルネーム「わたげ」)

 29歳の頃に中絶した経験とどう向き合えばいいか、32歳になる今も整理ができずにいます。あの一連の経験を決して忘れたいわけではありません。ただ、月命日のたびにどうしようもない気持ちになります。死ぬまでこういうふうに繰り返すだろうし、それも覚悟しています。ただあの経験以来、自分を信用できません。どこかで慰めを求める自分にも嫌悪します。そんな気持ちになるのも無理はないと割り切るしかないのでしょうか。

A. 肯定できないものを愛せないわけではない。

 もっとずっと若い頃ではありますが、私にも中絶経験があり、何かのきっかけでそれを思い出してしまうこともあります。時間の経過が必ずしもすべてを解決するとは思いませんが、すでに十五年以上前の経験であるため、その選択のあとの人生に厚みができてきたことが、後悔や嫌な思い出とそれなりに距離を保つのに役立っているのは事実です。十五年もあると、その中には震えるほど楽しい時間や絶対に出会いたかった人との出会いが含まれるわけで、自分のした選択が愚かであったり痛ましかったりしても、その愚かで痛ましい選択のおかげで出会えたものも多いと感じるからです。

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鈴木涼美

鈴木涼美

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中にAV女優としてデビューし、キャバクラなどで働きつつ、東京大学大学院修士課程を修了。日本経済新聞社で5年半勤務した後、フリーの文筆家に転身。恋愛コラムやエッセイなど活躍の幅を広げる中、小説第一作の『ギフテッド』、第二作の『グレイスレス』は、芥川賞候補に選出された。著書に、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図は読まない』など。近著は、源氏物語を題材にした小説『YUKARI』

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後悔の連続のような人生