「偏差値ナンバーワンの大学に行きたい」という思いが動機づけになっている場合、「医学部志望」と「医師志望」とは必ずしも一致しない。近年は難関大学医学部への進学を志望しているものの、情報分野に関心を示す生徒も増えていると保木本講師は指摘する。
「灘校に限った話ではありませんが、上位校に通う子たちの中には、趣味で大学の数学やプログラミングを学んでいる子たちも多い。そういう子たちは医学部には進むけど、自分でプログラミングを勉強すればいいやと思っていたりする。卒業生の中には、医学部には行ったものの医師にはならず、プログラミングを学んでベンチャー企業を立ち上げた子もいます」
本誌が今春東大合格者を対象に実施したアンケートからも、こうした変化が読み取れる。
医師になるためには医師国家試験をパスし、2年間の初期(臨床)研修と3年間の後期(専門)研修を経て専門医資格を取得することが必要になる。その後、医療機関に勤務し、医長や部長を経て院長を目指すか、大学病院に勤務し臨床や研究に従事しつつ、講師や准教授を経て教授職を目指すかのいずれかが、これまでの医師の”エリートコース”とされた。
だが、アンケートに回答してくれた理3合格者55人(全入学者は101人)のうち、大学卒業後の理想の働き方として「医者」「研究者」と答えたのは8人。19%は「起業」で、「組織が好きではない。やりたいことを主体的にやりたい」(女、早稲田実業)「自分の意思を貫くことが出来るから」(男、灘)といった理由が挙げられた。次いで多かったのが「フリーランス」で16%。「自分の能力を生かして自由に仕事をしたい」(男、桐朋学園中教)「組織の利益とは別に、医師としてほんとうにすべきことができると思う」(男、四日市)など、全般として組織にとらわれない自由な働き方を求める声が目立った。