加藤さんは「金沢に行くよりも俺と飲んだらいいじゃないか」と言うんだよね。それでも親父は無理やり俺を連れ出して金沢に行っちゃった。そうしたら、それ以来、営業部長や本部長は会ってくれたけど、加藤さんは一切会ってくれなくなった。金沢に行ってしまったことで、頭に来たんだろうね。
親父も自分の月給が1~2万円のときにご祝儀いっぱいもらってほくそえんでたけど、もっと気が利く商売人だったら宴席を途中で抜けるなんてことはしなかっただろう。自分の面子を優先して、俺を連れ出していい顔してるだけで、俺に見返りはなんにもない。
俺もそれが嫌になって、途中からは地元に帰っても一切そういう席に顔を出さなくなったんだ。俺以外の相撲取りも、ほかのスポーツ選手も同じような目に遭っている人はいっぱいいるだろうね。
100万円から20万円抜かれる!?
そうして地元での付き合いは悪くなったとはいえ、後援会の人からご祝儀をもらうこともあったよ。それが直接じゃなくて親方や女将さん経由だと「100万円入っていて、多いから20万円抜いておいたわよ」なんて、平気で自分たちの取り分を差し引いて渡されるんだ。なんでそこで抜くんだよ(笑)。
宴席だけでもずいぶんとご祝儀がもらえるが、それよりもすごいのが、大関や横綱に昇進したときのパーティーだ。後援会の人、スポンサーが呼ばれて、ご祝儀もものすごい額になる。そりゃあ金持ちが集まって、大金を包むから、ご祝儀だけで何千万円になるよ。
でも、この金が揉め事の種になるんだ。相撲部屋が主催するパーティーだからご祝儀は一度、部屋であずかって、それを部屋=4、力士=6とかで分配するんだけど、その取り分で揉めてしまう。
親方になるとあまり金が入ってこないし、大関、横綱になるまで育てたという思いがあるから、多めに抜きたくなる気持ちも分からなくもない。かといって、当の力士だって「俺の集めたスポンサーだ」という思いもあるだろうからやっかいだ。
ご祝儀で揉めるかどうかは弟子の心掛けひとつ。部屋や親方には世話になったからよしとするか、許せないか。ちなみに大鵬さんは金のことで揉めたなんてことは聞いたことがない。親方も大鵬さんも信頼関係が出来上がっていたんだね。