TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回はラーシュ・ノレーン作の舞台「夜は昼の母」について。
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「ここは陸の孤島なの」。俳優・那須佐代子は自ら支配人を務めるシアター風姿花伝をそう形容していると聞いた。目白駅から孤島を目指すが、大丈夫かな、果たして着くのだろうかと毎回不安になってしまう。そしてその孤島は海に流されることなく、無事に存在している。
シアター風姿花伝という島で上演される演目は、観る者に何かしらの爪痕を残す。観客は自分に問いかけられた様々なクエスチョンの答えを探しながら歩き戻り、駅周辺の雑踏にほっとする。風姿花伝までの往復の道のりもまた那須が仕組む演目なのかとさえ思ってしまう。
歩行困難になるほど強風の夜に「夜は昼の母」を観た。作者はラーシュ・ノレーン。彼の代表作だというが、ノレーンのことは知らなかった。
家族の主人(山崎一)が経営する小さなホテルがある。妻(那須)の咳は止まらない。兵役を終えた長男(竪山隼太)は父を罵倒し、このファミリーは崩壊寸前だとわかる。その日は岡本健一演じる次男ダヴィドの誕生日。彼の追想の中にこの家族の来し方と行く末が見えてくる。
どうやら作者ノレーンはダヴィドに自分を投影しているらしい。彼の父もホテルを経営するアルコール依存症者で、母は肺がんを患い、諍(いさか)いの絶えない家庭で少年期を過ごし、詩を書いた。不安であればあるほど家族を愛する。そこには切実な絆があった。