3時間を超える大作だった。前半はギスギスした関係性に耐え、後半は運命に翻弄されながら家族が生き抜く喜びと強靭さを味わった。4人の出演者全員が人生と格闘し、剝き出しの喧嘩は忖度がないだけ美しかった。
中でも何十年来の友人・山崎一が表現する酒飲みの悦楽と苦しみは圧巻。酒に塗れた薄笑いは「カッコーの巣の上で」で怪優ぶりを示したジャック・ニコルソンを彷彿させた。
山崎は一切酒が飲めない。そんな彼に役作りを訊いた。
「アルコール依存症者の姿をアップしたYouTubeを観まくるうちに、酒を飲むと体にリズムが生まれるのがわかった。うねった動きというか。『気持ちいいー!』と叫ぶ男は演技に取り入れた」
飲み過ぎると日常が雑になっていくのだという。
「ハイボールを作るでしょ。ダイヤアイスの袋を引き裂いてジョッキに入れる。入りきれない氷を床にばら撒いても気にしない。ウイスキーをそこにドボドボ。9割が酒で、炭酸水は1割。それを一気に飲む」
下戸の山崎はそんな彼らを観察するにつれ、飲めないのに酔った気分になった。「その人の体になっていくというのかな、意識が同化して酔っぱらっちゃった」。山崎が演じる依存症の父が軸になり、家族のストーリーが展開される。「家族はどうしようもない状況だけどそこから誰も逃げようとしない。一方でそれぞれが家族を演じている部分もある」
孤島の劇場「シアター風姿花伝」には劇作家の長塚圭史もいた。彼とは親しく酒を飲む仲だが、その日だけは酒をやめておいた。
(文・延江 浩)
※AERAオンライン限定記事