2011年3月に知人の元医師の父(当時77)を殺害し、19年11月には、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者(当時51)から依頼を受けて殺害したとして、殺人や嘱託殺人などの罪に問われた医師、大久保愉一(よしかず)被告(45)の裁判員裁判の判決公判が3月5日、京都地裁であり、懲役18年(求刑懲役23年)が言い渡された。
AERA dot.は、二つの殺害事件で共謀した元医師の山本直樹被告(46)に大阪拘置所で取材し、“安楽死”に異様なまでに執着する大久保被告について聞いた。
判決によると、大久保被告は11年3月、山本被告らと共謀し、山本被告の父を入院先の長野県内の病院から退院させ、東京都内のアパートに移動させた後、何らかの方法で殺害した。19年11月には、京都市内のALSの女性患者のマンションを訪れ、女性から依頼を受け、胃に直接栄養を送る「胃ろう」に薬物を注入し、急性薬物中毒で殺害した。
大久保被告と共謀し、二つの事件にかかわった山本被告の一審は、ALSの女性患者の事件では懲役2年6カ月が言い渡され控訴中。父の事件では懲役13年の判決が出て、3月6日に大阪高裁で控訴棄却とされた。
山本被告は大阪拘置所で、これまで複数回にわたりAERA dot.の取材に応じ、大久保被告の安楽死に対する考えや、犯行時の様子などについて語った。
「ドクター・キリコ」との共通性
「大久保の裁判で証人として出廷した際にも言いましたが、大久保には『元官僚で医者のいい人』『ジェントルマン』という顔と、仮面をかぶった“殺人鬼”という二面性がある。それを知っているのは私だけかもしれない」
山本被告はそう静かに話し始めた。
大久保被告は法廷で、手塚治虫氏の漫画『ブラック・ジャック』に出てくる、安楽死を推進する医師「ドクター・キリコ」について、「自分と通じる」と証言した。
「医療の力をもってしても、苦痛を取り除けない患者を楽にしてあげる。手を尽くしてもどうしようもない方、医療でやれることがない方には説明はつくと思う」
そう述べ、女性患者への安楽死の正当性を訴えていた。一方で、地域医療に貢献するテレビドラマ「Dr.コトー診療所」にも「あこがれていた」と語っており、二面性をうかがわせた。