AERA 2024年3月11日号より

「そして、そのしんどさの先に、何かいいことがあるはずだから、生きながらえてほしい。そう思っています」

 依存症治療に携わる国立精神・神経医療研究センター(NCNP)薬物依存研究部長の松本俊彦医師は、ODは生きづらさを抱えた子どもの生きる手段になっていて、強制的にやめさせれば逃げ場を失い自殺に至る可能性があるという。しかし、だからといってODを続けるのは「問題の解決を先延ばしにするだけ」と指摘し、「2方向から考えていく必要がある」と語る。

「まず、国が医療費削減策として取ってきた市販薬推進政策の再考です。医療費の削減を目的に14年にインターネットでの市販薬販売が規制緩和されました。市販薬は身近なものになりましたが、それが本当に国民を健康にすることになったのか、しっかり評価する必要があります」

 次が、「薬物乱用防止教育の抜本的な見直し」だ。

 今の薬物乱用防止教育は、「絶対、ダメ」としか教えない。自殺予防教育も、かつては命の大切さを伝えていたが、今は「SOSの出し方教育」に力を入れている。薬物乱用防止教育も、自殺予防教育の観点を導入し、生きづらさから薬に手を出す子どもに、「信頼できる大人にSOSを出して」と伝える教育が必要、という。

「あと一つ、ODをしている友だちがいたら、避けたり非難するのではなく、SOSのサインだと受け取り、声をかけ、スクールカウンセラーや保健室の先生など助けてくれる大人のところに一緒について行き孤立させないことが大事と、教える必要があります」

 社会には何ができるか。松本医師は言う。

「子どもたちが安心安全に過ごせる居場所が減り、その苦しさから逃れるため薬に手を伸ばしています。『ODはダメ』という姿勢ではなく、子どもが孤立せず安心していられる居場所をつくり、生きやすいと思える社会にすることが重要。それは、大人の役目です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2024年3月11日号より抜粋

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