AERA 2024年3月11日号より

コロナ禍で加速した子どもの「生きづらさ」

 10代のODの広がりは、データにも表れている。「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」によれば、10代で薬物依存症の治療を受けた患者の、「市販薬」が主な原因となった割合は、2014年は0%だったのが、22年には約65%を占め、覚醒剤(約4%)や大麻(約11%)を大きく上回る。

 急速に、ODが10代に広がった背景には何があるのか。

 依存症治療に携わる国立精神・神経医療研究センター(NCNP)薬物依存研究部長の松本俊彦医師は、「生きづらさ」があり、それが「コロナ禍で加速した」と指摘する。

「コロナ禍でステイホームになり学校に行けず外出も制限され、それまで家庭がしんどくてもなんとか生き延びていた子たちの逃げ場がなくなりました。子どもは『SOS』を出すのが苦手なため、誰かに助けを求めるのではなく、しんどい気持ちを市販薬で紛らわせるようになっていきました」

 しかも今は、どの街にもドラッグストアはあり身近な場所になっているので、市販薬への抵抗感は低い。特に女子は、生理痛の問題もあり市販薬との距離が近く、男子よりも医療や医薬品へアクセスする傾向が強いこともあってか、患者の約7割を占めるという。

 市販薬は、医師が処方する薬に比べ効果は弱いが副作用も少ないと思われている。だが、松本医師によれば、市販のせき止めや風邪薬には、覚醒剤や麻薬に準ずる成分が入っていて安全性を保証できない薬も往々にしてあるという。過剰に飲めば、肝機能や腎機能が低下したり、不整脈を起こす可能性もある。さらに、市販薬には様々な成分が入っているので、相互作用で体にどのような影響を与えるか予想がつかない怖さもある、と。

「しかも、つらい気持ちに『蓋』をするためにODを繰り返していると、感情を表す語彙がどんどん減っていきます。その結果、コミュニケーション能力も落ちていきます。ODをしていても、一見すると何ともないので、本人が苦しんでいることに周りが気づけなくもなります」(松本医師)

(編集部・野村昌二)

AERA 2024年3月11日号より抜粋

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