ドラッグストアで手に入れやすい市販薬の乱用が、若者のODの広がりの背景にあるという。市販薬でも、決められた用量を超えて過剰に服用すれば、重い依存症に陥る(写真:Getty Images)

「市販薬」を乱用するオーバードーズ(OD)が、10代に急速に蔓延している。10代で薬物依存症の治療を受けた患者の市販薬使用の割合は、覚醒剤を大きく上回る。ODが10代に広がった背景には何があるのか。AERA 2024年3月11日号より。

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 オーバードーズ(OD)を始めたのは、中学1年の秋だった。

「しんどいな、苦しいな。そんな気持ちをごまかすために飲んだ感じです」

 富山大学に通う、儚(はかない)さん(22、ハンドルネーム)はそう話す。

 3歳の時に両親が離婚。母親(50代)と一緒に暮らし始めたが、じきに母からの虐待が始まった。殴る、蹴る、ネグレクト(育児放棄)……。児童相談所に保護されたことがあり、学校ではいじめられた。生きづらさから逃れるため、小学4年生の時にリストカットを始めた。中学に入ると、家にも学校にも居場所がなくなった。

 そんなしんどさをごまかすため、母親が病院で処方されていた抗うつ剤や向精神薬に手を出した。

 20錠くらいを水で一気に飲み下した。体調が悪くなり、貧血の時のような、ふらふらする感覚を得られODをやめられなくなった。

 薬局でせき止めや風邪薬など市販薬を、小遣いで買って飲むようになった。店員にとめられることはなかった。学校では常に「体調が悪い人」と思われ、救急車で4度、病院に搬送され胃を洗浄されたこともあった。

「死にたい気持ちを、薬を飲んで体調を悪化させることで相殺させ、生き延びていた感じです」

 中学3年生の時、この環境から抜け出すには大学に進学して家を出るしかないと決めた。勉強に集中するため、高校1年生でODをやめた。儚さんは振り返る。

「母親に心配してもらいたかった、という気持ちもありました」

 一時的な高揚感や陶酔感などを得ることを目的に、せき止めや風邪薬など市販薬を乱用するODが、10代に蔓延している。

 東京・歌舞伎町の通称「トー横」と呼ばれるエリアでは、「トー横キッズ」と呼ばれる若者らの間でODは「パキる」と呼ばれ流行(はや)った。昨年12月には東京都内の小学校で、高学年の女子児童2人がODをして救急搬送された。市販薬を校内に持ち込み、過剰に摂取していた。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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