角野:録音したものから自動でノイズを除去するときも、何らかの数学がそこにはあります。学部のときにやっていた音源分離というのは、人の声が何人か混ざっているのを聖徳太子みたいに聞き分けるとか、ピアノ、ドラム、ベースが混ざった音から、ピアノだけの波形を取り出すことです。データを処理して、どういう評価基準のもとで最適になるかっていう考え方が数学なんです。面白かったですね。
大宮:東大に入って、今に生きていることはありますか。
角野:理系だと論文を書くには何か新しいことがないと論文にならない。でも新しいと言うためには、今までの研究を全て調べて、で、何が足りないのか、で、私はこれをしましたっていう思考回路になる。たぶんピアノ科にずっといたら、今、世界に何がすでに存在して、何がなくて、何をやれば新しくなるのかみたいな思考にはなってなかったんじゃないかなと思います。
大宮:どう新しいものを発表するか、ということがテーマなんですか。
角野:自分の一番の重要性はそこにありますね。新しくてどう社会の役に立つかまで言えて、初めて価値を持つ。だから、自己満足で終わりたくないし、お客さんがどう感じるか、は気にしてます。お客さんが100%知ってるものを提供するのも違うし、全く知らないものを提供するのも違う。発見と共感のバランスを常に探している感じです。
※AERA 2023年9月18日号