磯谷祐維(いそや・ゆい)/2003年1月15日生まれ。21歳。岐阜県各務原市出身。山崎隆之八段門下。23年、女流2級。24年、YAMADA女流チャレンジ杯に優勝し女流初段に昇段。好きな食べ物はしいたけ(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。34人目は、磯谷祐維 女流初段です。AERA 2024年2月26日号に掲載したインタビューのテーマは「私のライバル」。

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 磯谷祐維は藤井聡太八冠と同い年。子ども大会で負かされたこともある。いま、藤井を意識することは?

「特にないです(笑)。もう上の存在すぎて。藤井さんの棋譜は、全部並べてます。終盤も読み切ってるのが本当にすごい。いい意味で、踏み込みが異常だと思います。序盤も、どんな戦型を相手にしても指しこなせるのがすごい」

 少年時の藤井は、負けずぎらいで有名だった。磯谷もまた、闘志を前面に出して戦ってきた。自分でも負けずぎらいだと思う?

「そうですね、思います。負けるといつも泣いてます。家に帰ってとか。アマチュアのときはもう、会場のトイレで泣いたりしてました」

 アマ大会では、磯谷は序盤はびゅんびゅん飛ばすように指していた。女流棋士になったいまは、だいぶ変わった。

「やっぱり研究会で奨励会三段以上の人と指すと、本当に将棋の格が違うっていうか、序盤で差をつけられてしまうことが多かったので。かなり研究しないと、互角には持っていけません。YAMADA女流チャレンジ杯決勝の前日も研究会でした。そのとき三段の人に『ちゃんとギリギリまで、秒を読まれるまで指して』ってアドバイスをもらったんです。『いますごい将棋がんばってるから、序盤もちゃんと時間使ったら勝てるよ』って言われて」

 決勝で戦った野原未蘭女流初段もまた、当然強い。序中盤ではリードを奪われた。それでも磯谷は屈せず、時間をめいっぱい使って指し続けた。その姿勢が功を奏したか、最終盤で逆転できた。

「秒読みであんなに『9』まで読まれることは、なかなかないですね」

 現在の女流棋界は、層が厚い。鳴り物入りで女流棋士になった磯谷も、そう簡単に勝てるほど甘くはない。公式戦でふがいない将棋を指し、師匠の山崎隆之八段から苦言をもらったこともある。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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