磯谷祐維にはイベントでもあちこちから声がかかる。年末12月31日と年始1月2日は研究会で将棋を指していた。タイトル挑戦に近づく重要な対局も控えている。充実した毎日だ(撮影/写真映像部・高野楓菜)

「ちょっと師匠に怒られちゃったので。でもそこから、けっこう気合が入ってがんばっています。いま清麗戦の予選でベスト8に残っていて、次に加藤さん(桃子女流四段)と当たります。加藤さんは強いですし、苦手です。研究タイプで、(序盤の甘い手を)すべてとがめられてしまうというか。加藤さんにはアマチュア時代から3連敗してるんで、そろそろ勝ちたいです」

 トップに立つ福間香奈と西山朋佳(いずれも女流四冠)にはまだ当たっていない。

「指してみたいですね。いまの自分で、どれぐらいまで戦えるのか」

 2023年11月23日。磯谷のデビュー記念祝賀パーティーが東京でおこなわれた。関西在住の山崎師匠も、前日収録のリモートインタビューでメッセージを寄せてくれた。

「弟子になったときに『将棋しかない』っていう言葉が印象的な子だったんですけど」

 師匠の目には、かつて奨励会に在籍していた頃の磯谷は、将棋がつらそうに見えた。しかしいまは楽しそうだ。現在の磯谷ほど、自分から率先して多くの研究会に顔を出し、多くの詰将棋を解いている女流棋士は、そうはいない。

「ちゃんとやってるんだなというのは感じられて、ほっとしています」

 厳しかった師匠からの、そんな心温まるビデオメッセージも終わった。楽しいパーティーもそろそろお開き。そう思われたところでサプライズが起きた。師匠の山崎が会場に現れたのだ。思わぬことに驚き、涙ぐむ磯谷に、山崎は笑って花束を渡した。(構成/ライター・松本博文)

AERA 2024年2月26日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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