「震災学習列車」でガイド中の千代川らんさん。「お客さんに『勉強になったよ』と言われると、『伝わったんだな』とうれしくなります」(写真:三陸鉄道提供)

 短大を卒業後、地域に密着した鉄道会社というイメージにも惹かれ、三陸鉄道に入社。宮古駅の駅務係として窓口で切符を売る業務を経て、いまは震災学習列車で奮闘する日々だ。

「約1時間20分の乗車時間で、車窓からの景色を見ながら震災当時の被害状況を伝えたり、お客さんが小学生の場合は飽きさせないようにクイズ形式を取り入れたり。逆に年齢層が高い場合は震災時に自分が体験したことをより深く細かく話すなど、試行錯誤を続けています」

 今年1月には、初めて企画から当日の運行までを手がけた「女子が楽しむ日本酒列車」を成功させ、大きな自信になったという。橋上さんはこう話す。

「『やってみてダメだったら、やめりゃいい』。そんな発想のもとに思い切って活躍できる社風が三陸鉄道にはあると思います。これからも新しいアイデアを積極的に出していってほしい」

自慢は地域の人たち

 三陸鉄道で働く橋上さんには「自慢」がある。沿線で農作業中の人や歩いている人たちが、走る列車に向かって自然と手を振ってくれる日常の光景だ。

「そんな鉄道、そうそうあるもんじゃない。地域の人たちが三陸鉄道を心から応援してくださっている。だからこそ、単なる『地域の足』ではだめなんです」

 たとえば首都圏から三陸鉄道へは、新幹線と在来線を乗り継ぎ、移動だけで半日はかかる。日帰りは考えづらい。ということは「三陸鉄道ががんばること」が宿泊や食事、土産などの需要を生み、地域貢献につながる。そんな思いが橋上さんにはある。

「ただ『三陸鉄道に乗って楽しかった』ではなく、『いい土地だよね、また岩手に行きたいね』となってほしい。その役割も三陸鉄道が負わせていただきたいし、それが私たちの会社のあるべき姿だと思っています」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年2月26日号

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