乳がんの分野は医療の進歩が目覚ましく、治療の選択肢は増えている。再建するかも含め、患者が治療選択に関わる要素があり、また選ばなくてはいけない場面が何度もある。そのため、できるだけ患者の気持ちをくめるよう心がけている。
「私の目の前に見えている姿が、患者さんのすべてではなく、表出していない気持ちがあるかもしれません。なかなか言えない気持ちを、できるだけくみ取れればと思っています。たわいのない雑談のなかで、その人の人生観がわかることもあります」
患者に相談された際にも、心がけていることがあるという。
「私自身、年齢を重ねるなかで、いろいろな変化を体験しています。年齢や生活環境によって価値観が変わるのは、患者も医療者も同じ。患者さんに『先生だったらどうしますか』と聞かれたとき、『私だったら』という答えは常に持っています。でもこれから私が変わることもある。今の自分の価値観を押し付けないことが大切です」
患者ごとに手術は臨機応変。完全なマニュアルはない
かつて外科の世界では「手術は見て覚えろ」といわれていた。しかし外科医不足の今、再現性のある手順やマニュアルが求められており、坂東医師もその必要性を認めている。
「ただ、同じ術式でもいつも同じ手順というわけではなく、乳がん手術でいえば、患者さんごとに体格や脂肪の量が異なります。そういう意味で、手術のマニュアルはなくて、臨機応変に自分のなかでベストを作っていくしかないと思うのです」
キャリアを重ねても、「まだまだ」だと感じているという。
「できたと思うとそこで成長が止まるので、できたと思わないようにしています。これからも、医学の進歩をとりいれ、よりよい医療を実践していきたいです」
(取材・文/伊波達也)
※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2024』より