重視されたのは色の重ね方で、季節感や美的センスを試された。ただし裳唐衣は身分の高い人の前に出る時に身につけるもので、貴族というより貴族に仕える女房の正装だった。貴族女性は袴と小袖の上に数枚の着物を重ねた袿姿(うちきすがた)で過ごすことが多かったという。
また女性は着物だけでなく、化粧にもこだわった。顔には白粉(おしろい)、唇には紅(べに)。さらに歯を鉄の粉で黒く染めるお歯黒(はぐろ)が、平安時代のトレンドだった。
このようにオシャレにこだわる平安貴族だが、お風呂に入るのは数日に一回程度。装束は使い捨てで洗濯はあまりしなかったという。貴族たちが装束に香を焚きしめたのは、においをごまかすためだ。香をたき、籠をかぶせて装束をかけておく――。今に続くお香文化は、こんなライフスタイルを背景に確立した。
(構成 生活・文化編集部 上原千穂 永井優希/イラスト 夏江まみ)