できないことを指摘して非難する、それは「いじめ」です。

 もちろん、あなたにいじめている意識はないでしょう。これまでどおりのおとうさん・おかあさんでいてほしい、こんな情けない姿は受け入れられない、家族こそがあきらめないで認知症を克服するんだ、その思いで、ついつらく当たってしまう、そして繰り返す親子げんかと後悔。その気持ちはわかります。

叱られた、いやな感情だけが残ってしまう

 認知症がない親ならば、親子げんかですから、謝れば関係は元に戻ります。しかし認知症の親は、何について叱られているのかがわからず、叱られたときのイヤな気分、悲しい気持ちだけがいつまでも心に残ります。

 この、敗北感、屈辱感、嫌悪感などの精神活動は、知的活動の裏付け(なぜ叱られたかの理解)がないために、不安感がより募ってしまいます。その強くなった不安から、歩き回りや大声、暴力、失禁などの周辺症状(問題行動)につながるケースも少なくありません。

 そして夜中の大声や失禁などについて、あなたがまた叱ったりすると、周辺症状がますます悪化する……あなたがせっかくここまで介護しているのに、悪循環に陥ってしまうのです。

 現在の認知症ケアは、認知症をだれにでも起こる普通のこととして受け入れ、認知症の人と共に前向きに生きるための生活の仕方を工夫する、認知症の人ではなく介護する側が変わっていく、という考え方です。ここが認知症の高齢者の介護が、家族に難しい理由です。

 親子という深い人間関係があるあなたは、いつまでも、いままでどおりの、しっかりした親子関係を守りたいので、認知症の親に優しくできなくて当たり前です。そのことを大前提としてスタートしてください。イライラするなど、自分たちの生活が脅かされてきたら、介護保険サービスを上手に利用して、介護のプロに協力を求めてください。

「関心をそらせる」のも効果的な接し方

 それでも日常のなかで、認知症の親とのやり取りに困ることもあるでしょう。

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「物を盗まれる」という認知症による被害妄想