※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 認知症を発症した親に、どのように接すればいいか悩む家族も多いようです。「認知症の介護は身内には無理。でもその場その場で対応のしかたがある」と介護アドバイザーの髙口光子さんは言います。その時々でどうすればよいか、介護のプロの技術を聞いてみました。

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親の困った行動には、常識的に対応する

 認知症を発症して、簡単なことが徐々にできなくなっていく親を見ているのは、本当につらく、せつないことです。

「なんとか認知症を予防したい、それでも認知症になったら、治したい、できることなら進行を遅らせたい」と多くの家族が思っています。弱っていく親に「しっかりしてほしい」という感情をコントロールできないあなたは、たとえば、母親が何十年と繰り返してきたみそ汁がつくれなくなって、自分でも戸惑っている状況を前にして、「何やってんの!」と叱りつけてしまいます。「まずい。いつもの味じゃない」「台所をちらかして汚い」など、言葉が止まらなくなってしまいます。

髙口光子・元気がでる介護研究所代表

 そして、自分の強い態度や言葉に後悔を繰り返し、ますますつらくなります。そんなとき、「普通の接し方をする」ことを心がけてみてください。

 目の前でまごまごして困っている人が他人だったら、あなたはどうするでしょうか。そんな言葉は投げつけられないはずです。認知症だから特別な接し方をするというのではなく、普通の、常識的なかかわり方をすればいいのです。さりげなく手伝って、一緒にみそ汁をつくり、一緒に食べ、あとで本人に気づかれないようにさりげなく片づけてあげる、それでいいのです。

認知症の親ができないことを非難するのは「いじめ」

 認知症では知的な機能が障害され、記憶、見当識(いまが何月何日で何時か、いまいる場所はどこかなど)、思考、判断などがこれまでと同じようにはできなくなっていきます。

 そういう人に向かって、「つくり方、忘れたの?」「きれいに片づけられないの?」などと言うのは、たとえば(引き合いに出して申し訳ないのですが)、視力が低下した人に「赤信号でしょ、何回言ったらわかるの?」と言うようなものです。

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高口光子

高口光子

高知医療学院卒業。理学療法士として病院勤務ののち、特別養護老人ホームに介護職として勤務。2002年から医療法人財団百葉の会で法人事務局企画教育推進室室長、生活リハビリ推進室室長を務めるとともに、介護アドバイザーとして活動。介護老人保健施設・鶴舞乃城、星のしずくの立ち上げに参加。22年、理想の介護の追求と実現を考える「髙口光子の元気がでる介護研究所」を設立。介護アドバイザー、理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。『介護施設で死ぬということ』『認知症介護びっくり日記』『リーダーのためのケア技術論』『介護の毒(ドク)はコドク(孤独)です。』など著書多数。https://genki-kaigo.net/ (元気がでる介護研究所)

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