エマニュエル・トッド氏

 家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言した、フランスの歴史家エマニュエル・トッド。グローバル化の問題点を指摘する彼は、欧米列強がもたらしたものは「新たな搾取」であると語ります。その真意を、2月13日発売の最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します。

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 ――私たちが追い求めた「グローバル化」とはいったい何だったのか、とあなたはお考えでしょうか。そして、世界と対立しつつある「西洋」はこれからどのようになっていくとお考えでしょうか。

 エマニュエル・トッド:もともとグローバル化は、世界に繁栄をもたらし、生活水準の向上をもたらすと言われていました。たしかに、それは真実と言えるでしょう。

 例えば、グローバル化のおかげで、中国やインドをはじめとする、多くの発展途上国には、新たな中産階級が生まれたという事実もあります。

 ただ人々が見ようとしなかったのは、グローバル化とは、新しい種類の「グローバルな労働者階級」として、世界中の労働者を利用することを意味していたという点です。これによって生み出されたのが、フランス語や他の言語で言うところのまさに「プロレタリア」です。

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エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd) 歴史家、文化人類学者、人口学者。1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新書)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など。

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