直径2.2メートルの配管。処理水はここで海水と混じり希釈され、水槽を経由して海底トンネルに流れ、海に放出される(代表撮影)

 視察では、安全対策の徹底についての説明もあった。

「トラブル発生時に放出を止める緊急遮断弁を2カ所設けています。トリチウム以外の物質が含まれるなどした場合は10秒以内に自動で弁が閉まり、放水をストップさせます。外部電源が失われた場合なども、確実に放出を停止できます」(東電)

燃料デブリの取り出しは不可能

 24年度は、タンク約54基に相当する計約5万4600トンを7回に分けて海に流すという。そうして、目標とする2051年の「廃炉完了」には放出を終える計画を描く。

 だが、先は見えない。

 7日、汚染水の放射性物質を取り除く浄化装置がある建物の排出口から、高濃度汚染水が外部に漏れていたことがわかった。漏れた量は推計で5.5トン。すでに漏水は止まっているというが、周辺環境の約240倍の放射性物質が現場の土壌にしみこんだ可能性があるという。

 浄化装置は、汚染水に含まれる放射性セシウムなどを取り除くもの。この装置に汚染水を通した後、ALPSで処理する。

 また、汚染水の発生は最も多い時期(14年5月)の1日540トンからかなり減ったが、それでも今も毎日90トン(22年度の平均)発生している。汚染水がゼロにならない限り、除去、保管、放出のプロセスは延々と続く。

 汚染水をなくすには、発生源となっている燃料デブリを取り出さなければいけない。だが、燃料デブリは放射線量が極めて高く人が近づくことはできない。それどころかいまだ全貌すら把握できず、1グラムも取り出せていない。専門家は「燃料デブリの取り出しは100年たっても不可能」と指摘する。

「今も納得していない」

 そもそも処理水を巡っては15年、当時の安倍政権と東電が、福島県漁業協同組合連合会(福島県漁連)と、「関係者の理解なくしていかなる処分もしない」とする約束の文書を交わした。それなのに、国と東電は放出に踏み切った。前提とした「関係者の理解」は得られたのか。東電の担当者はこう述べた。

「100パーセント理解を得るのは、難しいと思います。ただ、約束を反故にされたと思っている方のご意見をないがしろにする気はなくて、理解に関する取り組みは、これからも続けていきます。例えば、海域モニタリングのデータや今後の計画をお見せしながら、皆さんに安心していただけるよう継続していきたいと思っています」

 だが、「理解」できていないという漁業関係者は少なくない。

 福島第一原発から北に約8キロの浪江町。この町で刺し網漁を営む漁師の高野武さん(73)は、「データなどを公表するのは当然」として、こう話す。

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