昨年始まった、福島第一原発の処理水の海洋放出。あの事故から13年を前に、現地を取材し、漁業関係者や住民の声を聞いた。AERA 2024年2月19日号より。
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正午過ぎ。5号機の南側にある高台に立つと、海水を汲み上げるポンプや配管など、処理水の海洋放出に使う設備が見えた。
「1日およそ456トンの処理水を、約34万トンの海水で希釈して、トリチウム濃度を国の基準の40分の1未満まで薄めた上で、沖合およそ1キロの地点から放出します」
東京電力福島第一原発。案内役の、東電の担当者は説明する。
世界中を震撼させた原発事故からまもなく13年。1月中旬、記者は取材団の一員として、廃炉に向けた作業が続く福島第一原発に入った。
敷地内を視察用バスで移動すると、無数の巨大タンク群が現れる。処理水を入れた貯蔵タンクだ。その数は1千基を超える。
保管場所が限界に
2011年3月11日。大地震の後に起きた津波によって全電源を失った福島第一原発の1~3号機は、「メルトダウン(炉心溶融)」を起こし、建屋内には溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)が残った。総量は推計880トン。そこに雨や地下水が流れ込んだりすることで「汚染水」が生まれる。その汚染水から、「ALPS(アルプス)」と呼ばれる多核種除去設備で放射性物質を除去したのが「処理水」だ。ただ、トリチウムという放射性物質だけは、水素と同じ性質のため取り除けない。その処理水を、敷地内にタンクを置いて保管してきた。しかし処理水は増えつづけ、保管場所も限界に達してきた。タンクを増設したくても「もう土地がない」(東電)。
そこで、海底にトンネルを掘り、沖合約1キロから、海水で希釈した処理水を放出するとした。トンネルは昨年6月に完成し、同8月から海洋放出が始まった。
こうして23年度は、タンク約30基分(総量の2.3%)にあたる計約3万1200トンが4回に分けて放出される。すでに年内に3回の放出を終え、4回目は2月下旬を予定している。東電によると、これまで放出作業でトラブルはなく、周辺の海水に含まれるトリチウムの濃度に異常はなかったという。