好きな人に限らず、友達や自分のためにチョコを贈るケースも増えているバレンタイン。一方で、モテ度が数値化されてしまう面もあり、足の不自由な息子に「モテるかモテないかは、足の障害は関係ないと思う」と言い続けてきました(提供/江利川ちひろ)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 もうすぐバレンタインデーですね。

 息子を持つ母としては、「今年はいくつもらえるのかな?」「もらえなかったらかわいそうだな」と小さな頃から毎年勝手にドキドキしていました。特に息子は足が不自由なため、何かできないことがあるとどうしても「障害がなかったら」という“たられば”話や葛藤が出てきてしまいます。今回は、バレンタインデーについて書いてみようと思います。

「ひとつももらえなかったんだよ」

 現在は高2になった次女と高1の息子が小学校低学年頃から、女子の間では「友チョコ」を渡すことが増えたように思います。手作りのお菓子や市販の小分けになっているチョコレートを可愛くラッピングして交換し、次女はたくさんのチョコレートを持ち帰るようになりました。

 次女が小学校3年生、息子が小学校2年生だった頃、次女は紙袋いっぱいに入ったお菓子を持ち帰ったのに、息子がもらったのは抹茶チョコレートひとつだけだったことがありました。私は息子に「もらえて良かったね!」と言ったものの、実はそのチョコレートはある女の子が旅行に行ったお土産で、クラス全員にひとつずつ配られたとのこと。

「チョコ好きなのに、ひとつももらえないんだよ」と言っている姿を見て切なくなりました。

 その後、高学年になると、息子の周りには成績が良かったりスポーツ万能でモテモテな男の子が多く、(チョコレートは学校内では渡せないため)女子たちが「いつ渡す?」と話しているのを見かけたり、実際に渡しているところを見たと言ってふてくされ、そのたびに「こんな足だからモテないんだ」と言っていました。

息子へかけ続けた言葉

 私は息子に「モテるかモテないかは、足の障害は関係ないと思う」とずっと伝えてきました。「じゃあ、なぜチョコレートがもらえないのか?」と聞かれても答えに困ってしまうし、バレンタインデーのチョコレートの数はモテ度が数値化されてしまうのでフォローはとても難しいのですが、とにかく、息子の足の障害は早く生まれてきた後遺症であり、本人には何の責任もないこと、「障害=不幸」ではないこと、そして何より「(そんな葛藤から)人の気持ちがわかる優しい子になってくれた」と言い続けるしかないと思いました。この頃は「息子が自信が持てるようになるにはどうすれば良いのか?」と、バレンタインデーの時期になるたびに考えていました。

小さなできごとが自信に

 そんな息子も高校生になり、つい最近までクラス対抗の合唱コンクールの練習に力を入れていました。積極的に人前に出るタイプではなかったと思いますが、今回は初めてパートリーダーになり、「歌がうまい」と褒められていたようです。こんな日常の小さなできごとも彼の自信になったらしく、本番ではとても堂々と歌っていました。支えてくださる先生や友人たちのおかげですね。

 こうした経験の積み重ねが、「足の障害は人として劣っているわけではない」と心から思ってくれるようになることを期待しています。

 いつか本命チョコがもらえるといいね。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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