コミック『セクシー田中さん』を出版している小学館(写真:アフロ)

編集者が担うべき役割

 とはいえ、ひとたびトラブルが起きれば、編集者も大きな負担を強いられる。作者が脚本に納得していない場合、当然その旨を映像化の担当者に伝えるが、「制作スケジュールが押しているのでどうにもならない」と突き返され、板挟み状態になることもある。

「『先生の世界は漫画で表現できるじゃないですか、どうかドラマは別物として折り合いをつけてください』と説得するのも、仕事の一つではあります。でも編集者は、最終的には作者の気持ちに寄り添うべきでしょう。『ドラゴンボール』など数々のヒット作に携わった編集者・鳥嶋和彦さんの、『編集者は漫画家を何人も抱えているけど、漫画家にとって編集者は一人しかいない。だから編集者は漫画家を守る義務がある』という言葉を思い出します」

 こう話すAさんは、「漫画家は、孤独な仕事なんです」と続けた。

 かつて、漫画家の自宅にはアシスタントたちが何人も集まっていたが、最近はデータのやりとりで完結できるため、おのおのが一人黙々と作業するケースが増えている。Aさんいわく、「今日も誰ともしゃべらなかった」「打ち合わせの時くらいは外に出たい」とこぼす漫画家もいて、なかには「他に乗る機会がないから」とフェラーリに乗って出版社に出向く人までいたという。

「先生たちは、『前回より面白いものを描かなければ』と、それこそ血ヘドを吐くような思いで読者の期待に応え続けている。だから編集者も先生の意向を守るために全力を尽くすべきだし、もし映像化の際、脚本に違和感をおぼえたら、先生に渡す前に、『これは原作とちがいます』などときちんと主張して押し戻すのがベストだと思います」(Aさん)

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漫画家ができる「自衛策」