一時は引退も選択肢に入れたが、「ケガをして投げられずに辞めることはしたくない。悔いのない野球人生だったと思えるまで前に進みたい」の思いから、99年の西武ルーキー時代に2軍投手コーチだった中日・森繁和監督に相談。森監督も「10勝、20勝しろなんて言わない。やり尽くすまでやればいい」と後押しし、1月23日、ナゴヤ球場の室内練習場で非公開の形で入団テストが行われた。
捕手を立たせ、直球、カーブ、スライダー、チェンジアップの計22球を投げたところで、本人はまだ投げるつもりだったのを森監督が制し、「着替えてしっかり(入団)会見をやってこい」と合格を告げる。
「ここ何年も投げられていないので、大きなことは言えないが、いろんな人に恩返しするために、まず1軍のマウンドに立つことが目標。チームが少しでも上に行けるような存在になれるようにしたい」と誓った松坂は同年6勝を挙げ、カムバック賞を手にした。(文・久保田龍雄)
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。