新たな「場」となった蟹ブックスで。「結果論だけど、この店がちょうど良かったと思う」(撮影/関口達朗)
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 小さな独立系の書店が人気だ。「蟹ブックス」もその一つ。2022年に花田菜々子が東京・高円寺で開店した。人の話を聞くのが好きで、場の空気をとらえるのもうまい。それでも、居心地のいい場所が見つかりそうになっては失った。未知なる出会いを求めて、世界を広げていく花田が、ここからどんな道を進むのか。誰も分からないから楽しい。

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メールで取材を申し込んだ時、蟹(かに)ブックス店主の花田菜々子(はなだななこ・44)はひどく戸惑っていた。最初の返信には「正直に申し上げまして、どうして自分にと思いますし、荷が重いような気もしております」とあった。その答えに驚いた。著書『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(以下、通称『であすす』)は6万部を超えるベストセラー。2022年9月に開いた東京都杉並区高円寺の書店「蟹ブックス」も人気書店となっていた。私の目には〈現代の肖像〉へ登場するのにぴったりの人と映っていたからである。

 一度私に会ってから決めたいと言われ、暑さの残る9月、蟹ブックスへ出かけた。1時間ほど話をした3日後、OKが出た。なぜ花田はあれほど取材を受けることに慎重になっていたのか。何度か取材するうちに、幼い頃からまわりに対して抱いていた違和感と自己肯定感の低さにたどり着く。

 花田は東京都足立区生まれ。家は自営業で、祖父母と両親、妹の6人家族だった。自宅に帰ればいつも家族のいる環境。花田は初めての子としてとても可愛がられて育った。

「小さい頃から本当に字を覚えるのが早くて、教えられる前から看板を読んで驚かれました。絵本も字だけの本も、早くから読んでいましたね」

 両親は特に本好きというわけではなかったが、娘が本好きなことを喜び、父は「字の本なら好きなだけ買っていい」と言ってくれていた。文章を書くことも好きで、小学校3年の時にできた友だちとは大人になるまで交換日記を続けた。当時は少女小説がはやっていたが、早熟な花田はだんだんそれに飽き足りなくなっていく。小6の頃、書店の平台に積まれていた山田詠美(えいみ)や吉本ばななの作品に出会い、強い衝撃を受けた。

「山田さんはすごく格好良かった。あんなに素敵なのに、黒人とつきあっていることで中傷されたり、性のことを書いて攻撃されたり。でも私には『彼女たちの言っていることの方が本当なんだ』と思えたんです。ほかにも江國香織、川上弘美、銀色夏生(なつを)などは全部読みましたね」

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