さらに北上した。能登半島の中央に位置し、輪島市の南に接する穴水町に入ると、状況はさらに深刻だった。道路はどこもかしこもひび割れて隆起し、スピードを少し上げるとタイヤがパンクするのではないかと感じるほどだった。実際、道路脇には何台もの車が乗り捨てられていた。

穴水町に入る手前で、道路の裂け目に車が落ちていた。撤去作業は断念せざるを得なかったのか、翌日も車は残されたままになっていた(画像は一部加工しています)

 家屋も傾いているというレベルを通り越し、それこそ少し押しただけで崩れ落ちそうな家が多い。電柱は斜めに傾き、電線は大きくたわんでいる。

 通信状態もどんどん悪化していった。スマートフォンのアンテナマークが1本また1本と減り、ついにゼロになった。もし自分の身に何かあっても助けを呼べない、と想像すると背筋が寒くなったが、障害物を避けながら、ともに北を目指す周りの車の存在に励まされ、勝手に同志のような連帯を感じていた。

障害物だらけの細い道を、みなで隊列を組んで進む(画像は一部加工しています)

 いったん車を止めて輪島市に入る道を地図で確認しようと、穴水町と七尾市を結ぶ「のと鉄道」の穴水駅に立ち寄った。のと鉄道は、旧国鉄の路線廃止に伴い、JR発足の翌1988年から第三セクターが運営している。経営は厳しいながらも、七尾湾や能登島など能登半島の景観が楽しめ、アニメ作品の“聖地”として知られる駅もあるなど、鉄道ファン以外の人気もあるローカル線だ。

線路が切れている

 しかし、目に入ってきたのは無残な姿となった駅舎だった。

 入り口前の地面は大きく波打ち、ブロック製の階段もぱっくりと割れている。車を降りて事務所をのぞいた。棚がひっくり返り、書類が散乱した室内を社員たちが片付けていた。

あらゆる物が散乱した穴水駅の事務所。奥で、社員たちが黙々と片付けをしていた
大きく損傷した穴水駅ホーム。幸い乗客にケガ人はおらず、みな無事に避難できたという

 そこに、小学生くらいの女の子と、母親とみられる女性がやってきた。女性は「金沢まで行きたいんですけど、復旧のめどはありますか?」と問いかけたが、事務所の中から返ってきたのは、「ないです。線路が切れているので……」。

「今日どうやって帰ろー?」とたずねる女の子の手を引き、女性は「やっぱだめですね」と、来た道を帰っていった。

 駅の被害の様子を聞こうと職員に声をかけると、大変な状況のなか、常務取締役兼鉄道部長の小林栄一さんが奥から出てきてくれた。

「水も電気も止まってますよ。暖をとれるのは石油ストーブだけ。地震のときにホームにとまっていた列車を臨時事務所にして、トイレは車両についているものを使っているんですけど、満杯になるのは時間の問題ですね」

地震の爪痕が残る穴水駅庁舎。通信状態が悪く、国土交通省などへの被害状況の報告もままならないという
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500メートル進むのに1時間半