IS人質事件を筆頭として、今日過激で物騒な印象がつきがちなイスラム教。本書はそれに対し、10年以上の取材から国内イスラム教徒の「普段着」の姿を描いたノンフィクションだ。
 入信動機、日頃の習慣、結婚問題など、幅広い視点からその生活を丁寧に浮かび上がらせていく。宗教徒になるためには相当な決心と覚悟が要されるイメージがある。しかし、本書には留学の奨学金に応募する方便として入信した日本ムスリム協会名誉会長、片思いの女性がイスラム教徒だったことがきっかけで入信、親から勘当されかけた会社員男性など、イメージを裏切る多彩な教徒たちが登場する。異文化を遠い位置に感じていたため、その「理解」も高い壁と捉えていたことに気付く。著者は、非イスラム教徒が当事者のようにイスラム教を理解することはそもそも「無理」と断言。「よくわからないけれど、彼らにとって宗教は大事なことらしい」程度の受け止め方でも問題はない、と続く言葉に肩の荷が下りる。イスラム教に限らず、宗教問題全般につきまとうタブー意識から解き放たれる一冊だ。

週刊朝日 2015年8月28日号