姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 裏金をめぐる自民党内の最大派閥の問題は、派閥解消の有無の問題に移り、解消vs.存続の暗闘の様相を呈しつつあります。

 今後、仮に自民党から派閥がなくなった場合、自民党はどうなるのでしょうか。まず注目したいのは、中曽根康弘首相の時に話題になった首相公選制のような議論が出てくるのかどうか。あるいは、完全に党の一枚岩化が進み、集権的な性格の強い政党になるのかどうか。党の一枚岩化が進んだ場合には、巨大政党が一つの司令塔、つまり党幹事長、さらには総裁としての首相官邸に権力が集中する状態になる可能性があり、安倍一強体制と言われた時以上の一強体制ができることも杞憂でないはずです。

 裏金が何を目的に、最終的に何に使われたのか、そうした根本的な疑惑が明らかにされないまま、派閥の解消で「自民党は新しくなりました」ということになりかねません。でも、それは自民党の中に政界再編成をにらんだような新党結成の動きすらない「寄らば大樹の陰」のような現状維持の力しか働いていないことを物語っています。

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