相撲っていう存在自体は世界に名前が通っているけど、相撲部屋での生活様式はビックリすると思うよ。ご飯も上から順番でしか食べられないとか、へそ曲がりだと目を付けられて、「この野郎! 生意気だ!」とか、返事が悪くても「この野郎、北向いてんのか!」って、ガツンとやられたり。俺も何度もやられたからね。

 朝青龍は自分の力で勝ち上がって横綱までいったし、親方の朝潮はなんでも許すタイプだから、余計に手に負えない弟子だったと思うよ。

朝青龍から「お疲れ様です!」

 ところが、俺が高砂部屋の打ち上げに行ったとき、鏡割りをやってくれと頼まれて檀上にあがったら、隣が朝青龍で、俺に「お疲れ様です」って言ってくれて、俺はすっかり「なんだ、こいつはいいやつだな」って、コロっと篭絡されてしまった(笑)。

 普通、横綱なんだから、自分から挨拶なんかしなくていいのに、俺にしてくれたからな。朝青龍は愛嬌があるね(笑)。

 どれだけ先輩でも、相撲は番付が一生ものを言う世界だ。俺が転向した当初は相撲からプロレスに来るのも多かったが、番付が低いと「どこまでいったんだ? 三段目!? シッシッ! あっち行け!」なんて追い払われる扱いだ。

 今でもときどき相撲からプロレスに転向してくるのもいるけど、立ち居振る舞いを見れば相撲で番付がどれくらいだったかはわかるよ。それを聞いて調べてみた娘が「なんでわかるの!?」って驚いているけど、大体わかるもんだよ。そいつらには俺は偉そうにしてもいいわけだ。番付が上だからね(笑)。

 だから余計に、横綱の朝青龍が前頭筆頭の俺にあいさつしてくれたのは嬉しかったんだよ。

 北向きな性格で70歳過ぎまで生きてきて俺が思うのは、人間は素直で従順なのが一番いいってことだ(笑)。

 北向きで生きるのは、ずっと気を張って生きなきゃいけないから、疲れるよ……。布団に入ると毎日「はぁ、疲れた」ってなって、それが嫌になってプロレスを辞めたんだ(笑)。

 そんな北向きな性格も女房には「あんたの自己満足だけだからね!」とよく言われたもんだよ。そんな女房のお陰で今ではすっかり、雪解けの道のような性格になったよ。いいか、北向きな性格でいいことなんてないからな! もう一度言うが、人間素直が一番だ。ずっと北向きだった俺が言うんだから、本当だよ(笑)。

(構成・高橋ダイスケ)

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天龍源一郎

天龍源一郎

天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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