個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は能登半島地震で被害を受けた地域への思いについて。
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新年最初のコラムです。
当コラム、10回のうち12回はふざけた内容で、週末の束の間、皆さまにご笑納いただけたらという思いで書いておりますが、今回ばかりはそういう気持ちになれません。
元日に発生し、今なお被害が拡大しつつある能登半島地震。
X(旧ツイッター)にも書きましたが、本当に言葉がありません。そして被災地の方々の心情を思うと、せめて自分に何ができるのかを考えずにはいられません。
学生時代、長野県に下宿していた僕は、何度か金沢や能登半島に旅行しました。今は違いますが両親が金沢に住んでいたこともあります。また役者になって能登の劇場で公演をしたこともあります。
18年前に能登で上演したその公演で、こんなことがありました。
本番中、突然、何やらものすごい轟音が劇場に響き渡り、ちなみに舞台上にいた僕は、ダンプカーか何かが劇場に突っ込んだと本気で思ったんですが、同じく舞台上にいた松金よね子さんは共演の岡本麗さんに「止(と)める? 公演、止める?」とささやき、ささやきというか、ほとんどセリフのようにハッキリと口にし、というかむしろセリフ以上にハッキリとそう言い、舞台裏のスタッフたちもざわつき、僕も「これは止めた方がいいんじゃないか」と思っていたら、僕もよね子さんも麗さんも、ほとんど同時に、あることに気づきます。
「あれ?………お客さん、全然動じてない」
というか動じてるのは、東京からやってきた我々役者とスタッフだけで、地元のお客さまは誰一人、一切、まったく動揺していない。そのことに舞台上の役者3人はほぼ同時に気づいたのです。
そうして、なんの轟音だったのかは未解決のまま、でも心は轟音にほぼ支配されたまま、なんとか芝居を続けたのです。
だってお客さまから「いいから動揺してないで、演技を続けなさい。わたしたち、あなたたちの演技を見に来たんだから」と言われてるような気がしたんです。