大門小百合(だいもん・さゆり)/1968年生まれ。「The Japan Times」の女性初の編集責任者。2020年独立。共著に『ハーバードで語られる世界戦略』(撮影/小黒冴夏)
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 管理職を打診されても、「私には無理」と尻込みしてしまう女性もいるだろう。「The Japan Times」の元編集責任者・大門小百合さんもその一人だったが、「大変だったこともありますが、実は良かったことの方が多い」と振り返る。AERA 2024年1月15日号より。

【アンケート結果】女性管理職が仕事と家庭の両立のために必要なことは?

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 大学卒業後、「The Japan Times」の記者になり、2006年に38歳で報道部長に就きました。当時、娘はまだ2歳。「無理です」と断りましたが、外国人スタッフや海外経験者の多い会社で、良い意味で男女の区別をしない文化のある職場でもあり、上司に「組織がうまく回るようにマネジメントすればいい」と後押しされ、引き受けました。

 娘は午後9時まで預かってくれる認証保育園に入れ、夫とともに子育てを何とか回しながらの綱渡りの日々が始まりました。急な発熱などで早く帰らなければいけない日はあるし、夜勤や土日の勤務に対応できない時もあり、常に後ろめたさを抱えていました。

 新聞業界の報道部長会議では、40~50人の男性の中で女性は私だけ。発言を躊躇(ちゅうちょ)してしまうことがありましたし、自社の記事をめぐるトラブル対応に出向くと女性部長だと怪訝(けげん)な顔をされる。普通に一生懸命働いているのにどうして?と違和感だらけでした。

 カリカリしていたんでしょうね。ある時、後輩たちから「話がある」と言われ、ランチに誘われました。辞めたいのかな、不満をぶつけられるのかな、と恐る恐る席についたら、「全部自分でやろうとしなくていいんですよ」と言ってくれました。あの時を思い出すと、今も涙が出ます。

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