皇居前のホームレス
クロマツの木々を背景に美しい芝の上に座るホームレスの姿もある。皇居前の大芝生広場で撮影したものだという。
「別のテーマの撮影で天皇誕生日に皇居を訪れたら、ホームレスが結構いてびっくりした。それで、日を改めて撮りに行ったんです」
ホームレス支援の食料配給や炊き出しは新宿周辺で行われることが多い。なぜ、わざわざ皇居の隣で暮らしているのか?
「あのころ、若者がホームレスを襲撃する『ホームレス狩り』が繰り返し起こっていましたから、ここにいれば安全だと言っていました」
長年、撮り続けきたホームレス、ゴン太さんのかばんの中身はあまりにも多かったので、全部を広げるのは諦めた。携帯電話、ラジカセ、時計、カメラ、スニーカー、釣りのリール……。
「ゴン太はいろいろなものを拾って、売ったりしていたんです。ぼくもカメラをいっぱいもらった。ほとんどが使えないジャンク品でしたけど」
実は、天皇誕生日に皇居を訪れたのはゴン太さんを撮影するためだったという。
「彼は当時、撮っていた写真集『君はあっちがわ 僕はこっちがわ』の主人公なんです。なぜか天皇が大好きで、皇居に行って万歳、万歳して帰ってくる。多分、弟の影響だと思う」
靖国神社で撮影したゴン太さんの弟は両手に日章旗を持ち、足元には軍歌のCDとプレーヤー、小さなリュックサックが写っている。
「彼に、なんで『右』なの、って聞いたことがある。でも、そういうのはわからないんだって。軍歌のCDや日の丸を持って靖国神社に行くと、みんなからすごく話しかけられる。普段は、汚い、とか言って誰も話しかけないのに。軍歌を一緒に歌ったりして、仲間みたいに扱ってくれる。それが楽しいんじゃないかな」
仲よくなって堂々と撮る
梁さんが新宿コマ劇場前広場(現・歌舞伎町シネシティ広場)を拠点に撮影を始めたのは1998年。ゴン太さんとはそのころからの付き合いで、梁さんの段ボールハウスの「隣人」だったという。
「彼がぼくにいろいろなことを教えてくれた。何時にどこへ行けば炊き出しあって、新しい服がもらえるとか。そういうところを一緒にまわった」
当時、写真学校の学生だった梁さんは毎週金曜日の夕方になるとビルに囲まれた広場を訪れた。そこで段ボールで家を作り、2泊3日を過ごした。
「気持ちよすぎてくせになります。ほんとうに。ホームレスになりかけましたよ」