東京を代表する繁華街、新宿・歌舞伎町をうごめく人々を撮り続けてきた梁丞佑(ヤン・スーウー)さんがホームレスのかばんの中身を撮らせてもらおうと思いついたのは15年ほど前だった。
「みんな、かばんを大事そうに持っていたから、絶対あそこには何か大切なものが入っていると思った。家族の思い出の品とか、そういうものを期待して撮り始めた」
ファッション好きの金城さん
その一人が沖縄出身の金城さんだった。
「ゴールデン街でばったり出会ったから、『金城さん、ちょっとかばんの中身を撮らせてよ』と、お願いしたら、かばんを開けて、段ボールの上にバーッと並べてくれた」
オールバックの髪形にトレンチコート、ピカピカの革靴を履いた金城さんが写真の中で、「さあ、撮ってくれ」と言わんばかりポーズでアスファルトに腰を下ろしている。
「この人はファッションが好きだから、服の配布があるときは、いつも一番先頭に並ぶんですよ」
そんな金城さんの横には衣類やペットボトル、コップ、ヘアブラシなどが置かれている。そして、なぜか「かばんの中からマヨネーズが出てきた」。
新宿三丁目で撮影したホームレスも知り合いだという。
「彼の『家』は都庁の隣の新宿中央公園にあるんですけど、新宿三丁目の近くにはお湯が出るシャワーとか、ホームレスの人たち向けの施設があるからここへやってきた。道端で鶴を折りながら、いろいろな人と話をするんです」
色とりどりの折り鶴が大きな台紙の上にコンパスで描かれたきちょうめんな線に沿って貼られている。その隅には「感謝」の文字が見える。
「これをデザイナーが持つようなかばんに入れて持ち運ぶんです。完成したら矢沢永吉さんに贈る、と言っていました。矢沢さんの大ファンで、小さなカセットテープレコーダーから歌が流れていた」