入学後思い描ける学校

 出願にもポイントがある。本人が強く希望する学校があり、その学校が複数回受験日を設けている時は、なるべく多く出願するのが良さそうだ。オンライン出願が主流となり、学校側は児童の出願回数を簡単に確認することができる。ある学校で管理職を務める教員は、

「合格ボーダーラインに複数人がいる場合、出願回数や学校見学に来た回数も見るようにしている」

 と話す。こうして、入学への本気度を測っているのだ。

「いま頑張れば高校入試がないから楽だ」などと親に言われて中学受験に挑んだ子ほど注意が必要だと話す教員もいる。

 都内の私立中高一貫校で教える40代の教員によれば、私立中学は公立よりも授業進度が速いため、入学後も勉強をおろそかにすることはできない。ところが、前述のような声かけで入学した子の場合、「中学受験が終われば楽になる」と思っているため、ここに気持ちのギャップが生まれ、不登校や中退するケースもあるという。

『「なんとかなる」と思えるレッスン』の著者で、病院での臨床経験も豊富な公認心理師の舟木彩乃さんは、このような声かけで中学受験をした場合、「中学への入学がゴールになってしまいます」と指摘する。

「勉強がまだ続くとなると、子どもとしては『え、終わりじゃなかったの?』と、先の見えない不安感が生まれます。その子のマックス偏差値から行ける学校を導き出すという方法も、入学がゴールになってしまうことが多いので、それよりも、入学後の生活が思い描ける学校かということを軸に出願校を考えることをお勧めします」(舟木さん)

 ゴールの見えないマラソンを走り続けることほどつらいことはない。出願校選びの軸を間違えると、思わぬ迷宮に子どもを導くことになりそうだ。(フリーランス記者・宮本さおり)

AERA 2024年1月15日号