チームメートが待つゴールに両手を広げて入る青学大アンカーの宇田川瞬矢(手前)

 6区で両校の差は4分17秒にまで広がり、この時点で勝負はあった。8区以降、レース序盤に積極的に飛ばすのは区間記録更新を狙う青学大の選手の方で、駒大の選手からは覇気が感じられなかった。優勝が遠ざかることで戦意がくじかれたのか。それだけ学生はナイーブなのである。

晴れ舞台ほど強い青学

 反対に、青学大はレース中にプラスアルファが生み出された。1区では駒大に36秒差をつけられたが、2区の黒田朝日が22秒差に縮めると、3区で太田が学生最速ランナー佐藤を追い詰めた。レース後、太田は「佐藤君という強い選手を追いかける展開になったので、良いタイムが出ましたけど、僕がこだわっていたのはあくまで順位でした」と話し、強い選手と一緒に走ることに喜びを感じている様子だった。

 青学大のOBは苦笑しながら、「大きいコンテンツの大会だと太田は走るんですよね」と話していたが、箱根駅伝という晴れ舞台、そして相手が強ければ強いほど力を発揮するのは、勝つ時の青学大のパターンだ。このカルチャーは今年で就任20年を迎えた原晋監督が作り上げた最良のものかもしれない。

 ただし、強敵・駒大を相手に不安は大きかったと太田からたすきを受けた4区の4年生、佐藤一世は語る。

「年末の段階で、優勝しなければいけないというプレッシャーをみんなが感じていたと思います。それでも12月28日のミーティングで、監督が『準優勝でもいいんですよ』と言ってくれました。それで気が楽になった面はありました」

アンカーの宇田川瞬矢のゴールを笑顔で待つ青学大の原晋監督(右)

 原監督は選手たちの重圧をやわらげつつ、ずっと言い続けてきた。「箱根になれば、ウチは強いんだから」。太田の快走は駒大から自信を奪い、反対に青学大の仲間に確信を生んだ。監督の言葉は本当だったんだと。

 太田が走った59分47秒の間に、形勢、そして精神的な立場が入れ替わり、100回目の箱根駅伝の「流れ」が決まった。駅伝とはかくも繊細な競技なのである。(スポーツジャーナリスト・生島 淳)

AERA 2024年1月15日号

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