金正恩氏とジュエ氏(提供:Office of the North Korean government press service/UPI/アフロ)

「とにかく軍を抑えろ」

 友人もロッドマンも、長男は見てもいないし、聞いてもいない。実は長男など存在せず、第1子は長女のジュエ氏と考えることは決して不合理ではあるまい。

 そもそも北朝鮮のメディアが「ジュエ」という名前を伝えたことはない。「尊敬するお子さま」などと形容してきた。そのため一部の韓国メディアは「ジュエ」という名前も疑問視し、「ロッドマン氏の勘違い説」を報じたほどだ。

「22年11月の火星17型発射で初めて登場してから、これまでジュエ氏は公式に19回の動静が確認されました。そして、その大半が軍事関連という特徴があります。23年8月には父の正恩氏とともに海軍司令部を訪れました。とてもではありませんが、子どもが入れるような場所ではありません。正恩氏の後継者であると決まっているからこその行動だと考えるほうが自然でしょう」(辺氏)

 正恩氏から見ると祖父にあたる金日成氏は、息子の金正日氏に権力を継承するにあたり、「とにかく軍を抑えろ。経済にはクビを突っ込むな」と言い聞かせたという。

「金一族は東ヨーロッパ諸国の瓦解(がかい)を目の当たりにし、軍を掌握することの重要性が骨身にしみたのです。そしてこの問題は『なぜ正日氏は三男の正恩氏を後継者に選んだのか』という疑問を解く鍵でもあります。長男の正男氏も次男の正哲氏もともに性格が弱く、軍を統率する能力に疑問を感じたのでしょう。一方、三男の正恩氏と妹の与正氏は非常に攻撃的な性格です。ジュエ氏も父と叔母の性格を受け継いでいるのかもしれません」(辺氏)

次のページ
金日成氏死去から30年の節目