「都心に住んでいるんだから、お互いさま」
一方、建て替えを控えているホームズの住民は、反対運動に冷ややかな視線をおくる。ホームズができた当初から50年近く住み続けている70代の女性・Aさんは、12月5日のデモを受け、こう苦言を呈した。
「これまでホームズの周りには次々と高いビルが建ってきましたが、日当たりが悪くなっても、夕焼けに染まるきれいな富士山が見えなくなっても、私たちはクレームなんか入れませんでしたよ。それこそパークコートが建ったときだって、何一つ反対しなかった。だってこんな都心に住んでいるんだから、お互いさまでしょう? 今、声をあげている方々にも思うところはあるのでしょうが、ちょっと過激だと思います」
マンション建設に対し、周辺住民から反対の声が上がる構図は、よくある“マンション紛争”にも見える。しかし、パークコートの住民と協力して反対運動を展開している「しぶや区民の声を聞く会」のメンバーで、不動産鑑定士の森口英晴氏は、首を横に振る。
「ホームズが単独で建て替えるなら文句はないんですよ。でも今の計画は、ホームズの隣にある(渋谷区立)神南小学校をからめて一体的に再開発することで、単独建て替えでは認可されない巨大なマンションを出現させる仕組みになっている。これが問題なのです」
この“仕組み”を理解するためには、建物の規模に制限をかける「容積率」についての知識が必要だ。
容積率とは、敷地面積に対する、建物の延べ床面積の割合のこと。たとえば、100㎡の敷地に建っている、延べ床面積300㎡の3階建てアパートの容積率は、300%だ。容積率は、高い建物の乱立を防ぐため、地域ごとに上限が定められている。
しかし都市計画法には、特別に容積率の制限を緩和する「容積適正配分型地区計画」というスキームがある。これは、土地を合理的に活用するため、低い建物が建っている土地の余剰容積率を、対象地区内のほかの土地に振り分けるというものだ。余剰容積率をもらった土地は、そのぶん高い建物を建てることが可能になる。