ホームズ周辺の区道(左の写真)は再開発の一環として廃道になり、車が通行できない歩行者中心の広場(右のイメージ図)に生まれ変わるという(※写真・イメージ図ともに渋谷区ホームページより転載)

「ホームズを後世に残したい」 

 しかし一方で、ホームズの住人たちの思いも切実だ。

 前出の、50年近くホームズに住むAさんによると、住民たちはこの10年の間、マンション建て替えを目指して勉強会や協議を続けてきた。きっかけは、耐震診断の結果、倒壊の可能性が指摘されたことだった。震災時には自分たち住民だけでなく、すぐ近くの神南小学校や渋谷区役所、渋谷公会堂に集う人たちの命も危険にさらす恐れがある。ようやく着工が現実味を帯びてきた今回の再開発プランは、古参の住民たちにとっては悲願なのだという。

 だからこそAさんは、再開発に反対の声が寄せられている現状に、「こちらはいい街づくりをしたいという一心なのに……」と、ため息をつく。

「私、このマンションにはものすごく愛着を持っているんです。もう歳だから、建て替え後に戻ってこられるかはわからないけど、この再開発が頓挫(とんざ)したらホームズは朽ちていくだけ。なんとか街に溶けこみ、みなさんにも楽しんでいただける形で後世に残したいんです。再開発すれば、マンションの周りの塀は取り払われて、私たちだけの庭は誰でも使える広場に生まれ変わります。子どもたちが車を気にせず遊んだり、老齢のご夫婦がコーヒーでも飲みながらほっと一息ついたり。すてきじゃないですか。どうしてこんな争いのような事態になってしまったのか……みんなでいい街を作ろうという機運になれないのかな」

 賛成派も反対派も、それぞれの視点で渋谷区のためを思っているはずだ。双方が納得できる最適解の模索が、続いている。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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