ロックバンドASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターとして知られる音楽家の後藤正文が、書籍『朝からロック』を上梓した。2017年から始まった朝日新聞の連載エッセーをまとめた本作は、音楽、社会、政治、そしてコロナ禍のなかで考え、気づいたことを記した作品。時事的なテーマを取り上げつつ、立ち止まって考え続けることに重きを置いた文章は、読む者の思考を促し、視野や価値観を広げることにつながりそうだ。
【写真】後藤正文さんらが参加したセカンドアルバム『PURSUE』をリリースした「のん」
東日本大震災の被災地における活動や、社会の未来を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長を務めるなど、これまでにもさまざまな発信・活動を継続してきた後藤。本作『朝からロック』を軸にしながら、音楽家が社会的な活動を行うことの意義について聞いた。前・後編にわたるロングインタビューでお届けする。(後編はこちら)
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――『朝からロック』は2017年から始まった朝日新聞の連載エッセーをまとめた作品。後藤さんご自身もこの6年を振り返る機会になったのでは?
そうですね。まず「コロナのこともちゃんと書いていたんだな」というのは思いました。パンデミックが始まった最初の頃は右も左もわからなかったし、「素早く何かを言うことが正解ではないんだな」と感じていて。本当のことなんて僕らにはわからないだろうし、正しい情報を探すというより、状況に応じて考え方を変えていかないといけないんだろうなと。それはおそらく、東日本大震災の経験から学んだことだと思います。社会に危機が訪れるといろんな方面から言葉が飛んでくるし、恐怖や不安でバイアスがかかるじゃないですか。良かれと思って発信している人もいるし、「安全です」という情報を信じようとしたり、いろいろな気持ちや現象が起きて。すごく難しいですよね。朝日新聞の連載も、ずっと「どう難しいか」を書いているだけな気がします。
――クリアに言い切るのではなく、疑問や不安を持ちながら、いい意味で保留を続けるというか。それは「朝からロック」の基本的な姿勢ですよね。
文字数も多くないし、一人のミュージシャンが言い切れることって、そんなにないんですよ。10年前と今で「いいな」と思う音楽も違ったりしますから。そういう自分の経験も含めて、正しさというものを疑いたいと思っています。「自分は間違っていない」と思っているときはいちばん危ないかもしれないなと。