国や東京都、大阪府などが高校や大学の授業料無償化の拡充を打ち出している。「子どもが行きたい学校に行ける」と歓迎の声がある一方、「不公平」「バラマキ」などと批判も(写真:GettyImages)
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 教育無償化をめぐって議論が起きている。東京都が所得制限なしで私立を含む高校授業料の無償化を打ち出した。教育費の負担を巡る世の意見を探った。AERA 2023年12月25日号より。

【図表】2023年度の都内私立高校の初年度納付金総額がこちら

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「これまで恩恵を受けられなかった身としては、本当にありがたい限り」

 東京都杉並区在住で、中2、小6、小3と、3人の子育て中の女性(38)は、晴れやかな笑顔でこう話す。

高校授業料の実質無償化を発表した小池百合子都知事。都内小中学校の給食費も支援する考えで、高校に加え大学の授業料も無償化する取り組みを全国的に行うよう、国に要望した

 12月5日、東京都の小池百合子知事は、2024年度から私立校を含めた全ての高校授業料を実質無償化する方針を明らかにした。都は現在、総年収が910万円未満の都内在住の世帯を対象に、国の就学支援金と合わせて、都立高は授業料の年11万8800円、私立高は平均授業料の年47万5千円を上限に助成。この所得制限を撤廃する。

 現在、都内では、都立高に通う生徒が約13万人、私立高は約18万人と、私立に通う生徒の方が多い。都によると、昨年度の助成対象は約19万人。都立高(247校)では約10万人、私立高(244校)では約6万7千人が助成を受けている。所得制限の撤廃により、少なくとも約12万人に対し、計400億円超を新たに助成する見込みだ。

 冒頭の女性は夫婦共働き。所得制限によって、これまで助成を受けられなかったことについて、「めちゃくちゃ不公平だと思っていた」という。

「子育てしながら、頑張って共働きしているのに、例えば片働きで収入が少ない人の方が恩恵を受けられるのは、働くモチベーションが奪われかねないと感じていました。所得制限による教育費の家計負担を考えると、いっそ書類上は離婚して世帯年収を下げた方がいいのではという考えがよぎったこともあるぐらいです」(女性)

 長女は都内の私立中学校に通っている。都立中学校の滑り止めに受けた学校だったが、本人の希望と、公立にはない充実したカリキュラムや手厚い体制などが入学の決め手になった。

「一概には言えませんが、公立に比べて手厚い予算がかけられているという点で、私立の方が質の良い教育を受けられるように感じています。公立の画一的な教育と違って、個々に合った教育が期待できるのも魅力。無償になるなら、断然私立を選ぶと思う」(同)

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