授業料無償化の政策が、選挙目当ての一時的なものなのか、もしくはこれから出産する子どもが進学するときにも継続されているのか、当事者にとって大きな問題だ(撮影/写真映像部・東川哲也)

教育費=親負担主義の日本、どこかに不公平感が残る

 都で公務員として働く女性(38)は、「無償化によって、“産む責任”がないがしろにされないかが心配」と言う。仕事柄、低所得世帯との接点も多いが、「経済的な余力がないのに、3人以上の多子世帯というケースも少なくない」と指摘する。

「子どもは本来、お金がかかるのを前提で産むべきものでは。経済的な面を含め、親の責任で育てられる人数を産むというのが前提だったはずなのに、無償化によって、それがあいまいになりかねない。それでも税金で助成するのなら、将来しっかり働いて納税し、社会を支えてくれることを期待したい」

 都の有名私立一貫校出身で、現在会社員の42歳男性は、「無償化されるメリットより、デメリットが上回ると考える人もいる」と話す。男性が通った私立校は裕福な家庭の子どもが多く、「集まる層や環境の質を考えて」、親が学校を選ぶ傾向も見られた。

「差別的だとも言われそうですが、経済力にかかわらず、学力だけの勝負となると、いろんな層の子どもが通うことになり、それをデメリットと捉える親もいる。ただ、面接などで学力とは別に“我が校にふさわしいか”という視点でも生徒を選べるなら、実際に入学する層はあまり変わらないのかも」

 賛否が分かれる様相だが、前出の小林教授は「教育費=親が負担すべきという考えが強い日本では、どこかに不公平感が残ってしまう」と口にする。

「今、教育費は親負担主義という従来型の考えか、無償化という方向か、大きく二つに意見が割れている。税負担となれば、子どもがいる人もいない人も等しく負担することになるが、他人の子どものためにお金を使うという考えに馴染みがないのも、反対の声が多い理由の一つ。制度を進めるには、丁寧な議論が欠かせない」(小林教授)

 私立校の授業料無償化によって、公立校が淘汰されるのではという見方もある。群馬県の公立高校出身で、現在茨城県で子育て中の38歳女性は「公立が人気の環境で育ったので、東京の私立志向が特殊に見える」としながら、「私立も無償化になると、公立と私立の区分けの意味がなくなり、公立を選ぶ人が少なくなるのでは」と話す。

 前出の末冨教授は、「私立の方が挑戦的な経営ができる一方、公立高校は教育委員会統制もあり、改革が進みづらい」とする。本来、それぞれの学校が特色を打ち出し、選ばれるために改革していく努力が必要なのは公立も私立も変わらないはずだ。今後、選ばれない学校が淘汰されていくのは必然とも言えるかもしれない。(フリーランス記者・松岡かすみ)

AERA 2023年12月25日号より抜粋

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