猿橋賞贈呈式での梅津理恵さんと夫の哲也さん=2019年5月、東京、梅津さん提供

 はい、そうでしょうね。金研創立以来103年で初めての女性教授だと聞きました。

――ご専門の「ハーフメタル」って、説明が難しいですよね。「半分金属」というわけではない。

 違います。磁石にくっつくような磁性体の中で、その電子の状態が半分は金属で半分は半導体的、という物質なんです。研究室にあるような装置で調べても、パッとすぐにはわからない。

 ちょっと専門的になりますけれど、電子には電荷のほかにスピンという性質もある。スピンには向きがあって、固体中の特定の電子の向きがそろっていると磁気モーメントというものを発生し、さらにその配列によって磁石(強磁性体)になったりする。スピンと電荷の両方をうまく操りたいというのが「スピントロニクス」という分野で、優れた電子部品を作りだすために盛んに研究されています。ハーフメタル型磁性体はどちらかの向きのスピンのみが電気的性質を担うことになるので、「スピンと電荷をうまく操る」のに大いに役立つはずで、私はとくに基礎的な性質を知るための実験に力を入れています。

――やっぱり難しい、と読者はきっと思ったと思います。とにかく、優れた電子部品を作るための材料科学の最先端で、基礎的な研究に取り組んでおられるわけですね。最初から研究者を目指していたわけではないと聞きました。

女性だからこその仕事を

 はい、私は物理が好きで地元の東北大に行きたかったんですが、受からなかったので奈良女子大の物理学科に行きました。修士を出て就職するつもりでしたけど、その割には就職活動をあまりしなくて、模索していたというか。親からは「博士課程に行ったら?」と優しい言葉をかけてもらったんですけど、就活がうまくいかないから博士課程に行くっていうのはちょっと違うな、と思って。同級生はどんどん就職が決まっていって、ちょっと焦りはありましたね。

 会社説明会に行くと、男子ばかりの中にだいたい女子が1人ポツンといる。そういうのを何回か経験して、突然、女性だからこそ得意な仕事、有利な仕事をしたほうがいいのかなと思い始めて、それで臨床心理学を勉強しようと奈良県立医科大学の研修生になった。

 ところが、1年たたないうちに母にがんが見つかった。5歳上の姉は看護師として働いていましたし、病状が深刻で先はもう短いと聞いて、居ても立ってもいられなくなって仙台に帰りました。母は56歳で発症して57歳で亡くなりました。

――お若かったですね……。

 ええ、私もその年に近づいてきました。母は11月に亡くなって、さてどうしようと考えたとき、大学でまた勉強できたらいいなとふっと思ったんです。私は修士まで行くのが当然だと思っていたけれど、世の中を見れば修士まで出た人はそんなに多くない。もともと東北大に入りたかったわけだし、奈良女子大の恩師に相談したら「理学部より工学部のほうが向いているんじゃないか」とアドバイスをもらえた。

――修士課程ではどんな研究を?

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