徹子さんの目の輝きが
公開中の映画「窓ぎわのトットちゃん」制作のきっかけにも「戦争」があった。監督の八鍬(やくわ)新之介さん(42)は話す。
「シリアの内戦や2016年の相模原市の障がい者施設での事件を受けて『いま自分はどんな作品を作ったらいいのか?』と悩みました。そんなとき書店で『窓ぎわのトットちゃん』に出合い、戦争や差別のない社会への願いやヒントがあると感じたんです」
すぐに企画書を携えて黒柳さんに面会した。これまで映像化を一切断ってきた黒柳さんだが、
「シリアの話をしたときに、徹子さんの目の輝きが変わりました。パッと私の目を見て『そうね』と言ってくださった」
映画は生き生きとしたトットちゃんの日常と忍びよる戦争の影を映し出す。八鍬さんは言う。
「トットちゃんのお父さんが絶対に軍歌を弾かなかったように、トモエ学園の小林校長先生も、全体主義的な思想から子どもたちを守っていた。戦争中でも尊厳を捨てずに生きた人の姿に、不安な現代を照らす普遍のメッセージがあると思います」
原作でも映画でも印象に残るのは「君は、本当は、いい子なんだよ」とトットちゃんを受け入れる「トモエ学園」の校長・小林宗作さんの存在だ。いまだったらトットちゃんは不登校になっていたかもしれない──。(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2023年12月18日号より抜粋