坂本花織(写真:新華社/アフロ)
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 グランプリファイナル(中国・北京)で初優勝した坂本花織がエキシビションで滑ったのは、昨季フリー曲『Elastic Heart』のヴァイオリンバージョンだった。一年前には苦い思いが残った曲を、情感豊かに演じている。5位に終わった前大会から一年後に手にした金メダルは、ライバルである過去の自分に打ち勝った証だった。

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 一昨季に2022年北京五輪で銅メダル獲得、2022年世界選手権で優勝という最高の結果を残したことで、昨季前半の坂本は重圧とモチベーションの低下に苦しんでいた。一年前のファイナル、ショートで首位に立った坂本は、最終滑走者としてフリーを迎える。しかしその時の『Elastic Heart』はミスが多発する残念な演技になり、フリーだけでは最下位となる6位、総合5位という結果に終わった。

 ファイナルでの不本意な結果に奮起した坂本は、質の高い練習を積んで迎えた約二週間後の2022年全日本選手権で優勝。その後も緩むことなく鍛錬し、2023年3月の世界選手権では2連覇を果たした。

 そして迎えた今季も、坂本は序盤からエンジン全開で飛ばしている。毎シーズン表現面での挑戦をする坂本はプログラムの完成度を少しずつ上げていくタイプで、スロースターターという印象があった。今季のプログラムも難しく、緩やかなピアノの音に乗って滑るショート『Baby, God Bless You』は新境地であり、またフリー『Wild is the Wind/Feeling Good』で演じるのは明朗活発な坂本のキャラクターとは真逆といっていい「ミステリアスな女性」だ。今季も二つのプログラムを、シーズン後半にかけて徐々に完成させていくものと思われた。

 しかし、グランプリシリーズ第2戦スケートカナダ(10月)で、坂本は既に自分のものにしたプログラムを披露して優勝している。それからグランプリ第5戦フィンランド大会(11月)、ファイナルと試合を重ねるごとにプログラムの完成度は高められていく。ファイナルのショートでは慈しむようなスケーティングで魅了し、フリーでは神秘的な坂本を観ることができた。

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一年前の忘れ物をようやく回収