またフィンランド大会では、ショートで予定していた3回転フリップ+3回転トウループのファーストジャンプが2回転になるミスが出た。ショートの規定上セカンドジャンプを3回転にしないと無得点になるピンチだったが、坂本はきっちりと3回転トウループをつけている。

 このリカバリーについてテレビのインタビューで問われた坂本は、「練習でも、よくあることなので」とコメントしている。

「しっかり後にトリプルトウループをつける練習をしていたので、それがこの結果になったのかなと思う」

 ファイナルのフリーでも、坂本は3回転フリップでステップアウトし、後ろにつける予定だった2回転トウループをつけられなくなるミスをしている。しかし坂本は最後のジャンプである3回転ループに2回転トウループをつけ、見事なリカバリーをみせた。ミスの連鎖を断ち切れなかった一年前とはまったく違う、巧みな試合運びだった。

 優勝した坂本は、テレビのインタビューで一年間の道程を振り返っている。

「弱い部分があるからこそ、またそこから這い上がろうと思って頑張ることができる。それを乗り越えることでより一層強くなれるのかなということを、身をもって感じられたので、それはすごくこれからの糧になるなと思いました」

 金メダリストとして臨んだエキシビションで『Elastic Heart』を滑り終えた坂本は、一年前の忘れ物をようやく回収したのかもしれない。(文・沢田聡子)

沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」
 

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