深紅の薔薇の花束を手に持っているファンもいた。
閑散としたスタジアム周辺の警備をしているスタッフの男性に話しかけると「700ミリオンだもんな」と大谷とドジャースの10年分の契約金の話が出た。
「子ども、いや、孫や曾孫の代まで、全く何も心配しないで一生暮らせる金額だよ。一般人にはとても想像がつかない世界だ」と言いながら、首を横に振って笑った。
他のスタッフは「彼のことはみんな恋しがるだろうね。今まで多くの選手がやって来て、そして去るのを何度も見てきて、それが仕事の一部になっちゃってるから、感傷的になってはいられないけど、ベースボールはひとりではできないっていうことだけは理解できたよ」と言った。
前出のロメロも、なぜ多くのスポーツの中、子供の頃から野球をプレーしてきたのか?という質問に「全てのスポーツの中で多分、最もチームとしての力が求められるから、難しくて、面白いんだ」と語った。
ストア店内でドジャース移籍の映像
ポツポツと現れるファンたちが立ち寄るのが球場入り口横のチームストアだった。
クリスマスカラーの赤と緑で飾りつけされた店内のレジカウンター上にあるテレビ画面には、ドジャースのデイブ・ロバーツ監督が大映しになっていた。
背番号17の白いエンゼルスジャージやTシャツが溢れる店内に、大谷とドジャースの契約のニュース映像がエンドレスで流れるという、シュールな光景だった。
その画面を見上げて「え!大谷、ドジャースに行くって決まったの?!」と叫んだのは、台湾からやってきた観光客のジェームズ・チェンだ。
10年前にオレンジ郡にあるチャップマン大学の学生だったチェンは、当時からエンゼルスファンで、久しぶりにアナハイムの伯母の元を観光で訪れたのだと言う。
「今日契約したのか。知らなかった」と驚きながら、彼は友人に頼まれたという大谷の2度目のMVP受賞記念ボールを買った。
店の外に出ると、すでに大谷のパネル写真は球場の壁面から完全に消え去っていた。