球場ストアの店内にはユニコーンのぬいぐるみが(写真/長野美穂)

「大谷がこのチームを選んだ日のことを今でも鮮明に覚えている。あ、自分たちは無理にLAになろうとしなくていいんだ、むしろアナハイム民であることを誇っていいんだと確信できた。球団オーナーですらマーケティングのために、LAという言葉をチームにつけたがるのに、だよ」

 ロメロは、強豪選手揃いのドジャースは来年のプレーオフに必ず進出するだろうと認めつつも、心の痛みをこう表現した。

「たとえて言うなら、今まで自分が付き合っていた最高の恋人が自分を振って、その日のうちに隣町の別の金持ちの相手の元に行ってしまったような感じ。その相手は、自分より豪華な家に住み、いい仕事につき、ルックスも良くて、超高級車に乗ってる」

 オレンジ郡在住のエンゼルスファンの多くがそうであるように、ロメロは「自分はドジャースファンを全身全霊を込めて嫌っている」と断言する。

「せめて大谷の移籍先が遠く離れたトロントのブルージェイズだったら、ここまで傷口に塩を塗られるような思いをしなくて済んだのに」

剥がれるパネルを無言で見守り…

 2014年以来、10年近くプレーオフを経験していないエンゼルスをドジャースファンたちはライバルとは認識していない。だが、エンゼルスファンにとって青地に白い「LA」の文字が入ったキャップを被る者は誰であろうと「宿敵」なのだ。

 だからこそ、SNS上で青いドジャースのユニフォームを着せられている大谷の画像を見てしまうと、胸が張り裂けそうだという。

 だが、ロメロはドジャースファンに対してはこんなメッセージを伝えたいという。

「球場を常に満員にできる力があるのは十分理解している。大谷をどうか手厚く迎えて、どんな状況でもずっと大事にしてくれ。彼の選手としてのピークはこれからだから。そしてトラウトがいるうちにエンゼルスはいつの日か必ずドジャースを倒すから」

 そうこうしているうちに大谷の写真の顔の部分が壁面から消滅し、辛うじて残っているのは、茶色いグローブ部分だけになった。それを剥がす作業を、数人のファンたちが無言で見守り、スマホで撮影していた。

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ポツポツと現れるファンたちが…